[以下は授業のエッセンスを再構成したもので、授業内容とはかならずしも一致しません。]
人類進化の研究において、まずヒトという生物の特徴を理解しておく必要があります。ヒトは「非特殊化」という点で際立っています。特殊化とは特定の環境に高度に適応することで、たとえばウマは草原への移動に特化して大型化・一本指・ひづめへと進化しました。このような特殊化した生物(スペシャリスト)は安定した環境では有利ですが、環境変化に弱く「進化の袋小路」に陥りやすいです。一方、ヒトを含む霊長類はジェネラリストであり、雑食・5本指・平爪・高度な大脳化によって多様な環境に柔軟に対応できます。
チンパンジーと比較したとき、ヒトの形態上の際立った特徴は4つあります。直立二足歩行(地上での長距離移動と生息地の拡大に対応)、脳容量の増大(高度な知能・社会性と関連)、犬歯の縮小(社会構造の変化と関連)、臼歯サイズの縮小(食性の変化と関連)です。ただしこれらは一度に獲得されたわけではなく、進化の各段階で順次出現しました。
人類の進化史は大きく6つの時代に区分されます。まず中新世類人猿(2200〜700万年前)は森林の樹上で植物を中心とした雑食生活を送っていましたが、オナガザル科の適応放散に押されて衰退しました。続く初期猿人(700〜400万年前)はアフリカの森林内で垂直木登りに適応しつつ、乾燥地への進出とともに直立姿勢・半地上生活を始め、犬歯の縮小と臼歯の増大が見られます。
猿人(400〜220万年前)になると直立二足歩行が発達し、核家族とコミュニティの萌芽が見られるようになります。乾燥地への多様な適応とともに種分化が進み、この時期には複数の人類種が同時に共存していました。
原人(220〜90万年前)は肉食へのシフトを遂げ、石器・集団狩猟・火の使用と調理を始めた Homo 属の段階です。身体の大型化・脳容量の増大・臼歯サイズの縮小が進み、最初の「出アフリカ」もこの時期に起こりました。旧人(90〜30万年前)は旧大陸各地へ分散・適応し、大型化と脳容量増大がピークに達しました。
最後に新人(30万年前〜現在)はアフリカの旧人(ハイデルベルグ人)から出現し、象徴的思考や表象の利用といった認知機能の革新を遂げました。その後アフリカを出て旧人と置換しながら世界各地へ広がり、現在に至っています。
全体を通じて重要なのは2点です。直立二足歩行が最初に獲得され、脳の進化はずっと後の段階であったこと、そして人類史の長い期間にわたって複数の人類種が同時に共存していたことです。