[以下は授業のエッセンスを再構成したもので、授業内容とはかならずしも一致しません。]
生態学は生物個体からエコシステムまで、複数のスケールにまたがる問題を扱う学問です。環境とは生物学的主体をとりまく事物であり、「資源」と「条件」に分けられます。生物学的主体には個体・群れ・個体群・生物群集という階層性があります。
個体レベルでは、生物個体の「生き方」が研究対象となります。生物の個体性には、体制デザインが固定的なユニット型(主に動物)と、機能単位を組み合わせて個体が成立するモジュール型(主に植物)があります。また、資源をいつ・どこで・どのように獲得するかという資源利用の問題、有性・無性生殖や繁殖相手の獲得・子育てなどの繁殖戦略、さらに誕生から死までの生活史(寿命・成長・分散など)も個体レベルの重要なテーマです。
個体群とは、空間的・時間的にまとまりをもち相互に影響を及ぼすことのできる同種個体の集団です。個体群生態学では、個体数の増減や分布域の変化といった個体群の動態、人間活動による絶滅リスク、地域個体群やメタ個体群・群れといった個体群構造が研究されます。
種間の相互作用としては、資源をめぐる競争、一方が他方を栄養源として利用する捕食-被捕食関係、双方または一方に利益をもたらす共生があります。これらの境界は必ずしも明確ではなく、たとえば、リスがドングリを食べる行為が捕食にあたるかどうかも議論の余地があります。
生物群集とは特定の空間に存在し相互作用するすべての種の個体群の集合で、非生物的要素も含めるとエコシステムと呼ばれます。群集生態学では種間相互作用のネットワーク、物質循環やエネルギーの流れ、生態系機能・サービスが扱われます。さらに地球規模では、物質循環・気候変動・生物多様性の維持といった生物地球化学的スケールの問題も生態学の射程に入ります。
生態学の研究手法は野外調査だけではありません。双眼鏡やノートによる古典的な観察・採集・野外実験に加え、ドローンやカメラトラップなどの先端機器を用いたフィールドワーク、DNAやホルモン解析・飼育実験などのラボワーク、統計やビッグデータを駆使したモデリング・シミュレーション、衛星画像や航空写真を用いたリモートセンシングなど、多様な手法が発展しています。さらに近年は、生態系保全や地域課題と結びついた地域との協働・市民サイエンスも重要な研究スタイルとなっています。